精神科には強制入院があると聞きましたが本当ですか?
自分が嫌だと思ってても
無理やり入院させられることがあるのですか?
精神科医のしろすけです。
今回はこちらのご質問に回答したいと思います。
精神科への入院~本人の意思を尊重~
精神科や精神疾患に馴染みがない方は
『強制入院』という言葉にビックリされたのではないでしょうか?
まず最初に言っておくと
入院に関して『本人の意思を尊重する』というのは
他の科と変わりません!!
じゃあなんで強制入院があるの?
というと、精神疾患を有している方は
入院治療が必要と判断されるほど病状が悪いにもかかわらず
本人が正常な判断ができない状態であるというケースがあります。
例えば
・幻覚妄想等の症状に支配され正常な判断ができない状態
などです。
ただ上記のような状態であえば即強制入院!
と判断するわけではありません。
なるべく
本人の意思が治療に前向きになるよう説明したり
通院の頻度も増やし外来での介入を増やす等アプローチをすることで、
本人に入院の同意が得られるよう最大限努力も行います。
出来うるアプローチをしても
✅病状が回復せず入院しなければ心身の安全が守れない状況
✅自傷他害の恐れがある状態
と判断される場合
家族等に入院の同意を得て、入院を行う流れとなります。
懲罰的に、また感情的に強制入院を行うことは一切ありません!
こうした本人の意思ではない入院を行う場合、
人権が適切に守られた上で、
医学的な必要性についての厳格な判断のもと、
法的に定められた手続きに則って行われる必要があります。
そこで、精神科で定められている
5つの入院の仕組み(入院形態)と
入院患者の様々な権利について解説を致します。
精神科の入院形態5つ
精神科の入院の制度については
入院の同意者によって大きく3つに分かれます。
・家族等のうちいずれかの者の同意による入院
・都道府県知事の権限による入院
こうした精神科の入院制度は精神保健福祉法で定められています。
任意入院
患者本人に入院する意思があり、
本人の同意によって行う入院を任意入院と呼びます。
症状が改善し医師が退院可能と判断した場合や、
患者本人が退院をしたい意思を表示した場合に退院となります。
ただし…
病状が非常に不安定でこのまま退院させない方が良いと判断される場合、
退院させるのを一旦引き留めることが可能です。
(特定医師による場合は12時間、精神保健指定医の診察による場合は72時間に限り可能)
基本的にこの退院の制限を行う場合は
任意入院から医療保護入院に切り替えを行う場合等に行われたりします。
任意入院は一般の病院の入院と同じですね。
入院時の治療内容や病棟での生活、費用の支払い等を入院時にご本人に説明し了承の上で入院を行います。
ただし、入院後に病状が悪化し治療の必要性について正常な判断ができなくなるケースもあります。
その場合は、入院中に任意入院から医療保護入院に切り替えることがあります。
医療保護入院
本人の病状が非常に悪く
入院治療の必要性があると判断されるが
本人の同意が得られない場合、
代わりに家族等が同意して入院することを医療保護入院と呼びます。
本人の意思を鑑みない入院であるため
・家族等の同意が得られること
・家族等がいない場合は市町村長の同意が得られること
が入院の条件となっています。
家族等の同意とは?
ここでいう家族等とは
②親権者(未成年者の入院の場合は両親もしくは親権者の同意)
③入院者から見て3親等内の扶養義務者
④後見人または保佐人
⑤上記が存在しない、または音信不通/絶縁等で存在の確認がとれない場合は市町村長
を指します。
基本的に入院診察時に家族等が同席の上で入院同意をとるのが一般的です。
※ご家族等にもご本人の様子を見て頂き、入院治療を受けるかどうか判断頂くため
ただしご家族が遠方に住まれていて、
ご本人のみ夜間に精神科救急病院へ搬送されるケースもあります。
家族の到着を待てれば良いですが、
本人の病状が非常に悪く、医療的保護の必要性がある緊急のケースでは、
電話等による口頭同意にもとづき、医療保護入院を行うこともあります。
入院時にご本人にも入院形態や権利等の告知を行う
とともに、治療内容や病棟での生活、費用の支払い等は
入院の同意者であるご家族等に説明し了承の上で入院を行います。
入院治療が進み、入院後にご本人の意思による入院同意が得られる状態になれば、入院中に医療保護入院から任意入院に切り替えることがあります。
医療機関側の義務や入院者本人の権利について
医療保護入院を行う場合は病院側も
(精神保健福祉士等の配置)
・地域援助事業者との連携
(入院者本人や家族からの相談に応じ必要な情報提供等を行う相談支援事業者等と連携)
・退院促進のための体制整備
(退院支援委員会の設置と開催)
が義務付けられています。
病棟ごとに担当が配置されているため必要に応じご相談ください。
また、入院中はご本人の病状によって
行動の制限が行われることがあります。
※詳細は近日中にupいたします
ただし以下5点は、
どのような状況であれ入院者本人が有する権利となっています。
②都道府県・地方法務局などの人権擁護に関する行政機関の職員、入院中の方の代理人である弁護士との電話
③都道府県・地方法務局などの人権擁護に関する行政機関の職員、入院中の方の代理人である弁護士、本人又は家族等の依頼により本人の代理人になろうとする弁護士との面会
④処遇改善請求
⑤退院請求
※詳細を知りたい方は厚生労働省【みんなのメンタルヘルス】のページをご参照ください
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/support/hospitalization.html
応急入院
精神保健指定医の診察により
医療上入院の必要があると判断されたが、
家族等の同意を得ることができない場合には、
72時間以内に限り、応急入院指定病院に入院させることができます。
ここでいう『家族等の同意を得ることができない』というのは
入院時点で『家族の連絡先が一切不明』ということを指します。
応急入院は
緊急措置のための限定入院という位置づけです。
72時間以内に
医療保護もしくは任意入院に切り替えて入院を継続するか、退院するかのいずれかの対応になってきます。
措置入院
2名以上の精神保健指定医の診察により、
自傷他害の恐れがあると判断された場合、
都道府県知事の権限(行政命令)により措置入院となります。
※精神保健福祉法第29条
この措置入院は患者本人や家族の意志は一切関係なく入院となります。
強制力が非常に強い入院であるために、
その条件はかなり厳しく、入院に至る過程も慎重に行われます。
措置入院に至る流れ
②措置該当事例か聴取され判定
③該当事例であれば措置診察のため移送
④2名の精神保健指定医による診察
⑤2名ともに措置入院相当と判断された場合に、措置入院が可能な病院へ移送し入院
基本的には上記の流れとなっており、
②や⑤の段階で措置相当ではないとされた場合は、
精神科病院への入院相談に切り替え対応がされます。
例えば
とっている人を通行人が発見し110番
↓
警察官が臨場し保護した際に
精神症状が著明にみられ自傷他害の恐れがあると判断される
↓
警察官から行政へ通報
というのが警察官による通報なのですが、
警察官が保護した時点で本人が落ち着き、
措置非該当と見なされるケースもあります。
措置入院が行える精神科病院は
各都道府県でも数える程度しかなく
該当病院の中で日々措置入院の受け入れを行っています。
措置入院後は…
担当医により治療を進め、病状が落ち着き自傷他害の恐れがなくなったと判断される場合、行政へ措置入院の解除を報告(病状消失届を提出)します。
解除後、そのまま入院治療を継続する場合は
医療保護入院/任意入院へ切り替えを行い、
退院可能な状態であれば退院となります。
緊急措置入院
基本的に措置入院と一緒です。
措置入院に該当するであろう事例の中で
休日や夜間等の事情により正規の手続きがとれず
しかし本人の状態が切迫している場合、
精神保健指定医1名の診察結果と都道府県知事の権限により
72時間を限度として暫定的に措置入院を行うことが可能です。
精神科医としての責任
以上5つが精神科病院における入院形態です。
しろすけも精神科救急病院に勤めていたので
多くの医療保護入院や措置入院患者を担当してきました。
ちなみに、私しろすけも医療保護入院の指示や
措置入院の必要性を判断する措置診察に
不可欠な資格である『精神保健指定医』という資格を所持しています。
この資格を取得するには一定以上の経験を有し、
国が定めた一定の基準や審査をクリアする必要性があるため
取得した当時は『やったー受かったー』と喜んだものです。
ただ、精神保健指定医である自分の指示で
人を鍵のかかる部屋に入れたり
四肢胴体を一定期間拘束するなど、
患者さんの行動を強制したり制限することになるため
その都度『この資格の責任は重い…』と感じます。
措置入院や医療保護入院について簡単に説明しました。
指示する医師の責任の重さ、
同意する家族の覚悟や苦悩を
いつも忘れてはならないと思います。
強制入院に関しては今も様々な意見がありますが、
しろすけは正しい運営と知識、治療する環境の
もとであれば必要な制度と考えます。
そのためにも、
医師や医療機関側も責任を以て運営・運用することを
心掛けていくべきでしょう。
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