こんにちはマスターです
本日はとあるお悩みを持つ中年男性の物語です
それでは彼の物語をみていきましょう
秋の日差しが優しく店内に注ぐある日
扉につけているベルが鳴らないくらいゆっくり、それも小さく扉を開けて
恐る恐る中を覗覗きこむ男性
きちんとしたスーツ姿をお召しですが、
世の中にある苦渋を煮詰めて飲まされたような表情をする男性でした。
いらっしゃいませ
あ、あの。…コーヒーのブラックを
男性をチラッと一目見たちーこが、何やら棚からゴソゴソとチョコレートを出してきました。
それ私の楽しみにしていたチョコレート(小声)
すぐコーヒー入れますね、今日はどんなことがお困りで?
男性は豆鉄砲を食らったような顔をされました
辛そうな人を見ると、すぐ悩みを聞くのがちーこの癖だな…
しばらくの沈黙を乗り越えて
ちーこに促されるまま
その男性は少しずつ話されました。
実は、もうすぐ定年を迎える予定です。
あと少しと思っていたのに、急に部署替えを命じられました。
新しい部署の水が合わないようです。
部下も自分より年齢は若いが、経験は豊富な者ばかり。
入ったばかりなのに、役職が高いから重要な判断を任されて。
何かミスがあったらと思うと怖くて仕方ない。
仕事が終わらず、いつも自宅に持ち帰ることになるから休む暇がない。
前はぐっすりと休めていたのに、だんだん寝付けなくなりました。
眠れてもすぐ目がさめる。朝起きると今日も仕事かと絶望感に襲われる。
家族にも話せない、お恥ずかしい話まだ家のローンもあります。
妻になんて言えば…
娘は結婚を控えています。バージンロードを一緒に歩くのに、こんな不甲斐ない父では行けないと思いなんとか毎日自分を奮い立たせてね。
でもね、今日、ベットから起きれなくなった。
ちょっと体調が…と嘘の連絡を同僚に連絡したけど。
それでも仕事に行かなければと思い震える手でネクタイを締めました。何万回締めたかもわからないネクタイも、なぜがやり方がわからない。
仕事の準備をしようと思っても何が必要かわからない。
妻が作った朝ごはんも喉を通らなかった。そういえば最近空腹の感覚もない。
必死に家を出たけど、怖くて最寄りの駅のホームまで行けなかった。
でも家にも帰れなくて。このまま、どうか車にぶつかってしばらく
入院できないだろうかと強く願ったりもしました。
周囲の人たちが信じられないくらい幸せそうに見えて涙が出て…
そんな絶望の中で喫茶の外の看板に『お悩み解決、コーヒーご馳走様します』の文字があって、恐る恐る入って来たってわけです。
情けないですよね。いい歳して…。
最後は震えて泣きながら、その男性はとめどなく話されました。
いつもなら、ひたすらうるさい店員ちーこが、こんな時だけは神妙な顔していました。
私が丹精込めて入れたコーヒーと私のお気に入りのチョコレートをお供に
ちーこがゆっくりと話し始めました。
今まで頑張ってこられたのですね。
いえいえ、頑張ったんです。弱くていいんです。
でも、一旦は白旗を上げる勇気を持つことも大事です。
今はみんなが自分のことに必死な時代、周囲に気を配ってくれる人は多くない。
必要な時に自分で白旗を上げないと、あの人は大丈夫だろうって勝手に判断されてしまう、そんな時代です。
これが怪我ならわかりやすい。
この人骨折しているから、ギブスして安静にしなきゃいけないって周囲の人はわかる。
でも心の怪我はそうもいかない。
きちんとしたスーツを着て、一生懸命見繕えば
どんなに心は大怪我してても大丈夫だろうって思われてしまう。
あなたは今そんな状態です。
助けてくれ!って周囲に叫ぶことも大事です。
そんな時に助けてくれないどころが、足を引っ張ろうとする人は関係を切った方がいい。
見向きもしてくれない人は放置でいい。
助けてくれる人を今は大事にしましょう。
申し訳ないって思うなら、元気になった時に何倍にもして恩返しをすればいい。
家族に申し訳ないって気持ちはよくわかります。
でも、家族もあなたの状態に気がつけなくって申し訳ないってきっと思うんです。
お互い様ですよ。
頼っていいです、家族だから。
損得勘定がないのが家族です。
とにかく今は、一旦白旗を上げて撤退してください。
その前にコーヒーとチョコレートをどうぞ、美味しいですよ、このチョコレート。
ゆっくり香りと甘みを味わってください。
必要な時は白旗を上げる勇気。なるほど、確かに。
いざという時ほど、誰かにSOSって出せないものかもしれない
泣きじゃくった男性は私の入れたコーヒーとお気に入りのチョコレートを
ガラス細工みたいに大事に大事に味わって帰られました。
どうやらあの後、精神科に受診して休職の診断書を会社に提出
しばらくお休みされたそうです。
いつも仕事をサボってばかりのちーこですが、
悩んでいる人は放っておけない性格
コーヒーのお代もまたもらい忘れてしまいました
さて、休憩でもするか
そう思った矢先でした…
あれ、私のお気に入りのチョコレートが一つもない!!