前回のお悩み喫茶では
認知症の医療介入が遅れた場合の事例を取り上げました。
※まだお読みでない方はコチラ
実際に精神科医療においては
ご本人の受診拒否により介入が遅れることがあります。
そうしたご家族が抱えるお悩みについて、さらに詳しく解説していきます。
強制入院とは?
病院まで連れていく手段は?
精神科救急病院の入院期間や治療目標は?
行動制限(隔離・拘束)は?
入院したら家族はどうするの?面会は許可されるの?
などなどたくさんの疑問点が出てくると思います。
入院前や入院中のやり取りをイメージしやすいよう
実際の診療の際に行うIC(インフォームド・コンセント)のように
解説していきましょう。
※精神科救急病院について知りたい方はコチラ
認知症の治療介入が遅れた場合の一例
入院の同意者と入院形態について
認知症の疑いのある父は精神科への受診や入院に拒否しています。
トラブルも続いていて明らかに症状も出ていると思います。
家族としては入院でしっかり治療をしてもらいたいのですが…
日本には精神保健福祉法という法律があります。
この法律に則り、ご本人の同意なくとも入院が成立するケースがあります。これた一般的にいう強制入院です。強制入院にも様々な種類がありますが今回の場合は医療保護入院というご家族同意による入院が妥当だと考えられます。(あくまでフィクションです、同業者の皆さま炎上しないでください…)
お父様の奥様はすでに他界されているとのことなので、この場合は娘様どちらかの同意が不可欠です。
(詳しくは『強制入院?その種類や規則など』をQ&Aにて別記事で紹介していきます)
受診拒否の患者を病院へ移送する手段
父の入院を検討していますが、うちは二人姉妹で男手はありません。
夫にも相談しましたが、車の運転はできるけど無理やり連れていくことはできないと断られてしまいました。
何度も話し合っているのですが、夫もうんざりしてしまっているようで…
救急車も緊急性がないなら呼ばないでって、きつく言われたこともあるし…誰に頼れば良いのか?病院のスタッフさんが自宅まで来てくれませんか?
どうして良いのかわからない不安なお気持ちお察しします。
男手が何人かいるとご本人が抵抗することを諦めていそいそと病院に来てくれることもありますが…女性2人だと1人は運転、もう1人がお父様をなだめがら病院に連れて行くというのは現実的ではないですね。
頑固な方や認知症で怒りっぽくなっている場合、信号で急に降りてしまう可能性もゼロではないのです…
ただ、病院スタッフがお迎えすることはできません。
知識として持っていただきたいのですが
民間救急というサービスがあります。
民間救急ですね。ちょっと調べてみます。
気が引けますが確実に連れていくためにも使用したいと思います。
ただちょっと怖いですね…口コミでも色々書いてあるし
※民間救急に関しての記事は近日up予定
そうですね、聞くだけではかなり怖いと思います。
会社さんによっても大きく異なりますが
実際の診療に繋がるまではきちんと待機してくれたり
ご家族が手続き中している間の待ち時間の話し相手になったり
診察室の出入り口で待っていてくれるなど
ご家族だけで対応しきれないところのフォローに入ってくれます。
入院先の病院と足並みを揃える必要性があるので、入院予定日に民間救急の予約をとり、診察時間に間に合うようにご本人を民間救急の人に連れて行ってもらうという流れです。
入院期間と入院後の治療目標
入院期間は大体どのくらいになりますか?
入院期間は人それぞれですので一概には申し上げられませんが
今回は認知症初期治療のケースなので入院期間は2~3ヶ月です。
入院することで、どんな風になりますか?
良くなりますか?
入院の治療目標という理解でよろしいですか?
認知症患者がいるご家族からのご相談で非常に多いご質問です。
今回のケースは周囲やご近所さんと度重なるトラブルが発生しており、
お聞きする症状や行動からも認知症が進行しており、治療はかなり後手に回っています。
厳しいようですが、
①診察や検査結果から診断を行う
②症状に応じた薬の調整を行う
③現状の認知機能や身体機能を考慮しつつ、ご本人が安心安全に過ごせる場所や支援環境を確保する
以上、3点が目標となります。
治療中心というより、必要な介護/福祉支援を得るための準備に重点を置く必要性があります。
入院したのだから症状が改善するではないのですか?
残念ですが進行してしまった認知機能を戻すことは、現代医療ではかなり難しいということをご理解頂く必要性があります。
また、入院という環境は想像以上に刺激が少ない環境です。
看護師さんがずっとそばにいて話相手になってくれることも難しく、
主治医が毎日病棟にいるわけでもございません。
診察も朝と夕方の回診の時のみ、なんていうこともあり得ます。
ご本人の状態によっては行動制限(隔離・拘束)が一時的に必要な場合もあります。
その場合、他の患者さんとの交流も行うことが難しくなるため、さらに認知機能が悪化する可能性もあります。
ただし、すべて悪い方向に向かうわけではありません。
周辺症状と呼ばれる症状に関しては薬物治療によって改善させることが可能です。
入院中の処遇について
今回認知症の周辺症状が強く出ていると、入院初期の段階でご本人の安全確保のためにも隔離や拘束が必要となる可能性があります。
隔離とか拘束をされるのは流石に身内としては可哀そうですが…
なんとかそうしたことをせず治療するのは難しいでしょうか?
もちろん、本当に必要だと判断される場合を除き行動制限は実施致しません。ただ、例えばご本人が被害妄想が強く出ており、物を壊そうとしたり他の患者さん暴力を振るうなどの衝動行為が出る可能性も否定できません。
なので、絶対に行動制限なしで治療を…というご希望には今回添えかねるため入院する時点で覚悟を決めておいていただきたいと思います。
治療が進み行動制限が不要になったら速やかに行動制限の解除を行いますのでご安心ください。
もし隔離や拘束が行われる場合、今回の認知症のようなケースだと
どの程度行われるものでしょうか?
長期的に行われることもあるのでしょうか?
入院先の病院にもよるかもしれませんが、行動制限は基本的に数日~1週間以内で終了することが多いです。
今回のお父様のケースでは未治療の方ではあるので、薬の調整次第では2週間程度かかる可能性もありますが、例えば1か月等長期化することはほぼないとお考えください。
家族としてできるだけ面会に来たいのですが面会は可能ですか?
あと入院中は電話等で本人と話すことも可能なのでしょうか?
もちろん可能です。ただし、ご本人様の治療の妨げとなると医師が判断した場合は面会や電話等の通信、外出や外泊について一時禁止となることもあります。
お父様が治療の必要性を理解されていない時に面会やお電話等でお話をすると、ご本人がご家族様に対して激怒して関係性が一時的にギクシャクすることもあるので、焦らずタイミングは一緒に考えていきましょう。
外出外泊も同様で、外出後に帰院拒否となってしまうと治療が途中で断念することになってしまうので、こちらも許可するタイミングは図っていきたいと思います。
また電話や面会も実施可能な時間帯や実施のルールが病棟規則で決められていますので、そちらは遵守いただくようお願い致します。
制限やルールに関しては承知しました。
確かに今回強制的に入院させることで本人は怒るかもしれないので、初回の面会は緊張しそうですね…
ちなみに面会等が制限された場合、許可が出た段階で連絡がいただけるのでしょうか?
隔離や拘束や面会等の行動制限の開始や解除の際には、病状報告と合わせて私やスタッフから連絡をさせて頂くのでご安心ください。
また、入院後の最初の面会には必要があれば私やスタッフが同席することもできますので、何かあればご相談ください。
病状が落ち着いてきたら、ご家族と一緒に外出が可能となることもあります。外出でご家族と一緒に喫茶店でゆっくりコーヒー飲めたと喜ばれる方もいますよ。
退院後の調整
無事入院できて少しほっとしました。
入院中に家族ができることややっておくべきことはありますか?
今回の場合では、早急に介護申請を行い、退院後の介護支援の体制を整えておく必要があるでしょう。
そのためにも申請の手順を把握し役所に行っていただき、主治医意見書の記載や介護認定調査の準備をする必要性があります。介護認定を受けて、必要な介護サービスや施設など、退院後のことも見据えて動きましょう。
入院したばかりですが、いきなり退院後を見据えないといけないのですか?
すぐに退院しろと言われているようで、ちょっと不安なのですが…
いきなり退院の話をされると不安になられますよね。
退院を即しているわけではないのでご安心ください。
実は介護認定の結果が出るまでには数週から1か月ほど時間を要します。
そのため早め早めに動いておかないと、全部が後手に回ることがあります。
治療は進んでいるのに退院先が決まらない、介護認定の結果が出てないから施設選びもできない…なんてことにならないように準備していきましょう。
なるべく入院期間を短くしてご自宅や施設等、ご本人が過ごしやすい環境に早期に戻れるよう一緒に頑張りましょう!
そうなんですね!安心しました。
入院も後手後手になったので、今回はきちんとしておきたいと思います。
介護認定調査に必要な主治医意見書は、入院中の担当医が記載させて頂きます。
必要な情報を後ほどお聞きしますのでご協力をお願い致します。
※主治医意見書に関しては別途記事をup予定
(担当医に主治医意見書書いてもらうにはどんなことを主治医に伝えておくべきかなどを詳しく説明していきます)
まとめ~入院前や入院時のICで疑問解消を~
今回は認知症の方のケースを用い
精神科での入院のイメージをお伝えさせて頂きました。
精神科は一般科と入院の制度や病棟のルールが異なることが多くあります。
初めて入院される方は
特に戸惑うこともあると思います。
入院を検討されている方は
事前によくご確認をいただき、疑問点は解消してから入院をするようにしましょう。
制度等の一般的な説明は調べれば出てきますが、
いざ自分や家族が入院したらどうなるの?というのを
イメージいただけるよう、症例を用いて解説をさせて頂きました。
今後もうつ病や依存症など色々な症例を用いて解説をしていきたいと思います。