精神科医療においては
・精神疾患(障害)と気づかない / 自己認識がない
・ご本人の受診拒否
などの理由によって、医療介入が遅れるケースがあります。
※お悩み喫茶でも認知症の医療介入が遅れた事例を取り上げました。
このような場合、
日常生活に大きな問題が生じ
対処できなくなったご家族、救急車や警察を通じて初めて医療につながります。
この時、ご本人の状態が悪化しているので
ほとんどの場合、精神科救急病院にて搬送され
入院治療が行われます。
ではこの精神科救急病院とはどういった病院なのでしょう??
精神科救急病院の必要性と役割
平成30年と少し古いデータですが…
119番の要請により救急搬送を行った患者のうち、
精神疾患が原因とされる方は、少なくとも把握できているだけで約12万人/年と出ています。
※総務省消防庁のサイト:
『令和元年版 救急救助の現況:救急版』
第21表【急病の疾病分類別の年齢区分別搬送人員】を参照
つまり、日で換算すると350人程度の方が、毎日搬送されていることになります。
精神科救急という言葉は一般的には
あまり馴染みがないかもしれませんが、
実は医療の現場ではごく普通のことなのです。
こうした救急や警察、その他ご家族を通じて相談に対し
緊急受診の受け入れをし必要な治療介入を行うのが精神科の救急病院です。
基本的には
『急性期の症状を脱するまでの治療』を目的とし、
症状が落ち着いた後の処遇は、本人やご家族等の目標を鑑みて処遇を決定します。
精神科救急病院とは?
ではどういった条件に当てはまると精神科救急病院と言えるのでしょう?
などの条件がパッと思いつくかもしれません。
ただ実は
精神科救急病院というのは
国や都道府県に『救急病院』として
届け出をして認可をもらっているわけではありません。
この条件を満たしていれば精神科救急病院だという
定義が明文化されていないのが実態なのです。
なので、極端なことを言うと
精神科を標榜している病院が今すぐに
『精神科救急病院です』と名乗ることはできちゃいます。
え…そんなのありなの?
と思いませんでしたか??
とは言っても、
救急病院を名乗る限りは
そのイメージを体現できないと
患者さんから【口だけの病院】と思われるし
同一業界からも白い目で見られます。
またいずれ広告規制の対象になるでしょう…
ここで何が言いたいかというと
病院のHPなどで精神科救急病院と
書いてあっても、その言葉だけで
すごい病院なんだ!と信用したり、
一般的に思う救急病院のイメージをその病院に投影したらダメ
ということです!
(この業界にいながら言うセリフでは無いと思いますが…)
実際は病院ごとに対応できる範囲や
医療スタッフの人員配置や設備等も異なり、
サービスの質や救急の実績も異なる可能性があります。
じゃあどういった点を見ればいいのでしょう?
探す目安(ポイント)をご紹介していきます。
精神科救急病院と言える十分条件3つ
先ほどもお伝えした通り
精神科救急病院を名乗る条件には明確な定義がありません。
ただ暗黙的には必要条件がいくつか存在しています。
以下3点に該当する病院は
そうした必要条件を上回る【精神科救急病院】と言えるでしょう。
精神科救急医療体制整備事業に参画している病院
各都道府県では、精神科救急医療体制を整える施策を行っています。
その事業の中では、
精神疾患による急患をスムーズに受け入れ医療につなげるため
・夜間休日関わらず急患を受け入れ、入院できる病床を確保する当番病院を設ける
・精神科急情報センターによる救急相談対応と、緊急度に応じて対応可能な病院や当番病院への搬送案内
などを行っています。
この事業に参画できる当番病院になるためには
精神科救急の受け入れ実績はもちろん、
病院設備や人員配置等の一定の基準を満たしている必要があります。
といっても、どの病院が当番病院かなどは公表されていません…
その代わりに
『精神科2次(もしくは3次)救急(指定)病院』
『精神科夜間休日救急診療医療機関』
という表現が使われていることが多いので
こうした表現をHP上で行っている病院は精神科救急病院と考えましょう。
精神科救急入院料を算定している病棟がある精神科病院
精神科の入院が行える病棟の中で
人員配置や設備的に一番認可を受けるのが厳しいとされているのが
『精神科救急入院料(別名:スーパー救急)』を算定できる病棟です。
この認可を受けるには厳しい条件がいくつもあるのですが
これら条件は、必然的に急患を数多く受け入かなければ達成できません。
なので精神科においては、
スーパー救急の病棟がある=精神科救急の病院であると考えてOKです。
各病院のHPでは病棟の入院基本料について公表していることが多いため
『精神科救急入院料』『スーパー救急』という用語は比較的発見しやすいでしょう。
措置入院/応急入院ができる精神科病院
※措置入院/応急入院については別途「強制入院」の記事にて詳細はご説明します。
ここでは、措置入院もしくは応急入院ができる病院は、
精神科救急の病院と思っていいんだなと捉えて頂ければと思います。
以上3点のいずれかを満たしてれば、
次にご紹介する必要条件 + αを満たす
自他ともに認める精神科救急病院でしょう。
精神科救急病院と言える必要条件7つ
では、他にどういった条件に該当していれば
精神科救急病院と判断できるのでしょう?
定義がないので個人的見解も含まれてきますが
身体科の救急医療病院の条件等を参考にすると
以下7点が目安と言えるでしょう。
①精神科医が24時間365日常駐している
②24時間365日救急での受診相談ができる窓口がある
③精神保健指定医が常勤で在籍している
④救急搬送用の出入り口と専用の診察室がある
⑤保護室等を有し急性期患者が入院できる設備を整えている
⑥自院患者だけでなく他院かかりつけの患者であっても急患で受け入れている
⑦CTやMRI、脳波や心電図など身体スクリーニングが行える検査機器を保有している
急患の受け入れをしていれば救急病院だ!という意見もあるかもしれませんが…
精神科救急と謳う限りは、
この6点はすべて抑えておいていただきたいなと
同業者としては感じております。
ちなみに①②⑤⑦については
HP等にも記載されていることがあるので参考にしてみてください。
転ばぬ先の杖~病院調査はしっかりしておこう~
・急性期症状へ介入を行う
・病状が不安定な方などを緊急的に受け入れる
など、一番大変な状況に対処する救急病院は、非常に有難い存在と言えます。
その反面、
・統一的な定義がなく病院ごとに受け入れの基準やルールに違いがある
・長期的な入院はできない(転院や早期に退院となることが多い)
・入院時に行動の制限がある
など、制約があるのも特徴です。
精神科救急病院はどこも一緒というわけではありません。
必要条件・十分条件に該当する数が多いほど
質が高い可能性が出てくるので
事前に病院の特徴を把握しておくことが大切です。
緊急的にかからないといけない状況になってからだと遅いので
救急病院については事前に自身でも調べ、
いざとなったら相談できる環境にしておきましょう。
今回は精神科の救急病院について触れました。
救急に限らず、精神科病院に入院する場合は
・病棟が閉鎖なのか開放なのか
・入院形態が任意なのか医療保護なのか
・病棟への持ち込み物品や外出等のルールがどうなっているか
など、一般の身体科の病院よりチェックすべきことが多くあります。
入院形態等についても別記事にて解説していきたいと思います。