子供のことで
どうしたらいいのかわからずご相談したいです。
14歳、中学生の娘がいます。
思春期ということもあってか
話しかけてくれることが少なくなり
会話する機会がめっきり減ってきています。
そうした中、先日久しぶりに
夕食を家族全員で一緒に食べたのですが
娘から醤油を受け取った際に
手首付近に傷跡らしきものが見えました…
一瞬のことだったのですが、見間違いとも思えず…
一旦妻にも確認しようと思い
食後にこっそり聞いてみたところ、
リストカットについては確証がない様子です。
中学生になるまでは
家族で良く会話したり出かけていて
自分を傷つけるなど想像もしていなかったので
とても動揺をしています…
本人に尋ねてみるしかないのですが、
『もし本当にリストカットをしているとしたら』
と考えると心配や焦り、不安が募ります…
また、子供の辛さを想像すると、
気持ちが張り裂けそうになります…
親としてどのように対応すればいいのでしょう?
リストカットしていたら
病院にすぐに連れて行くなどした方がいいのでしょうか?
ご質問ありがとうございます。
自分の大事な子供が、自分自身を傷つけている…
そう思うと胸が張り裂けそうで辛いと思います。
ただもしリストカットをしているなら
本人もとても辛い思いをされていることでしょう。
動揺されているとは思いますが
親の初期対応がとても大切になってくるので
今回はそこに焦点を絞り説明したいと思います。
子供の自傷行為を発見した場合の初期対応
本人へ介入をしましょう
リストカット等の自傷行為の傷跡や
行っている痕跡等を見かけた場合、
もちろん放置してはいけません。
自分の子に限ってまさか…
もしそうであっても一過的なものかも…
そう考え、
『もうしばらく本人の様子見をしよう』
と思ってしまう方も少なからずいらっしゃるかもしれませんが…
最初に申し上げておきます!
リストカットや自傷行為は、
『自分一人ではどうにもならない』という
一種の切迫している状態のときに起こりうるものです。
いわば周りへの無言のSOSでもあるので
様子見して良くなるということは一切ありません。
むしろ誰かの手助けがないと悪化する一方でしょう…
可能性がある時点で
時間を作って、きちんと娘さんへ介入するようにしましょう。
もし介入した結果、
親の勘違いだった / 偶然怪我をした
などであればそれはそれで一安心。
親の勘違いであったとしても
心配していた気持ちや
子供の様子を気にかけて常に気を配っているということは
お子さんに伝わることでしょう。
今回は本当にリストカットである場合も想定し
引き続き解説を続けたいと思います。
介入する際には原因究明より優先すべきこと
リストカットしていたのが事実だった…
その場合、まず親は確実に混乱することでしょう。
何が原因で…
事実を受け止めるだけでも難しく
✅子供が苦しんだり悩んでいることに悲しみを覚える
✅原因を想像し怒りを覚える
✅子供が悩んでいることに気づかなかった自分に対して後悔する
など…
あらゆる感情が渦巻き
とても冷静な状態ではいられないでしょう。
そして混乱しつつも
子供を案じ早くその苦しみから抜け出せるように…と
✅何がきっかけでし始めたの?
✅どのくらいの頻度でしているの?
✅今の学校でいじめられているとかあるの?
✅何か大きなストレスを感じることがあるの?
など
事実確認や原因究明をしがちです。
でもここで一旦ストップ!
『原因の聞き取りや調査』は
最初には行わないようにしましょう。
え…? 子供がリストカットしているなら
そもそもの原因などを確認して、早急に解消すべきなのでは??
と思われる方もいらっしゃると思います。
もちろん、子供に寄り添うことの一つとして
原因を解決することもとても大切なことです。
でもそれより大事なことを忘れてませんか??
多くの親御さんが忘れてしまう大事なこと…
それは
目の前のお子さんのケアです。
どういうこと?と思いますよね
詳しく解説していきます
鍵はお子さんのブラックボックスにあり
では、詳しく見ていきましょう。
分かりやすくするために
今回は計算式で例えてみたいと思います。
娘さんの中では上記のように
『ストレス原因に対し
■を掛け合わせるとリストカットをする』
という計算式ができあがっています。
この■(ブラックボックス)の中には
✅ストレスに対する反応
✅ストレスに対する防御方法
など色々なものが入っています。
さて、ここでお気づきになりましたでしょうか??
先ほど親御さんの多くは
お子さんがリストカットをした原因
つまりこの計算式でいうとストレス原因に着眼し取り除こうとする
とお伝えしました。
でもよーく計算式を見て下さい。
ストレス原因そのものが
リストカットを発生させているのでしょうか??
……いいえ、そうじゃないのです。
■(ブラックボックス)によって
リストカットという結果が導かれているのです。
※もし『リストカットを発生させるストレス原因』
というものがあるのであれば
世の中リストカットする人達で溢れてしまい
とんでもないことになっちゃいますね💦
そう、
真に介入すべきは
この■ブラックボックスの方なのです。
この■が変わらない限り
いくら目の前のストレス原因を
取り除いたとしても
別のストレス原因が発生したら
再びリストカットをするという結論に至るかもしれません。
だからこそ、
まずは娘さん自身に注目し
ストレス原因に対して
✅どう反応しているのか
✅どう対処しているのか
✅どう苦しんでいるのか
✅どう逃げているのか
✅どう周りにSOSを出しているのか
などを
聞きながら丁寧に紐解いていき、
結果がリストカットに至らないよう
ケアをする必要があるのです。
正直簡単に理解できない話だとおもいます。
しかし、時間がかかっても結構ですからこの流れを理解して頂きたいです。
ケアをする際に家族にしてほしいこと
ケアをするといっても
具体的にどういったことをすればいいのでしょう??
結論から言いますと
精神科医のような分析や精神療法は
一切いらないです。
まずは、
決して諦めず娘さんと向き合い
娘さん自身を受け止めてあげて下さい。
そして、
話をしっかりと聞いてあげて下さい。
誰にも言わず自分だけで抱えてきたことです
娘さんもなかなか話さないかもしれません…
また、知られたくないと拒絶する可能性もあります。
でもそこで決して諦めないで下さい。
リストカットに至っているということは
『逃げ道がなく追い込まれている状態』とも言えます。
表面上、拒絶があったとしても
心の中ではSOSを出しているのです。
親とは違う考え方をしていたとしても
なぜ?と疑問に思うことがあったとしても
でも娘さんにとってはそれが今の現状なのです。
その現状をそのまま受け止めてあげて下さい。
そしてゆっくりでいいので
本人が語り出すまで、口を挟まず聞いてあげて下さい。
話が止まらないなら
何時間でも付き合ってあげて下さい。
泣きたかったら沢山泣かせてあげて下さい。
スマホも触らず、電話にも出ず、
インターホンも無視して向き合ってあげて下さい。
そして受け止め、傾聴をしてあげてください。
私たち精神科医が最初に叩き込まれる
この傾聴の技術は特別な資格はいりません。
誰にでもできますが
根気と集中力と覚悟が必要です。
目の前のお子さんのためにどうかその力をかき集めて下さい。
そして娘さんの現状を受け止め
娘さんと一緒に必要な部分にケアをしていきましょう。
悪化した場合どうすればいい?
少し厳しいですが現実的なこととして…
親が介入をしてケアを行っていても
自傷行為がエスカレートすることがあります。
実は、リストカットを繰り返すことでストレス耐性が弱くなり
些細なことでも自傷行為せずにはいられなくなることがあるからです。
また、
自傷行為によって誰かが助けてくれると誤った学習をしてしまった場合
自傷行為はSOSではなくなり、誰かへのアピール行動になってしまうこともあります。
こうした場合は、
介入することが更に誤った学習につながってしまうので慎重な対応が求められます。
リストカットがエスカレートしたり問題が複雑化した場合
親だけで対応するのは正直困難になってきます。
自分たちでどうにか…
と思い頑張って対応しても
親子関係そのものが悪化し、
更に問題が複雑化する可能性も出てきます。
そのため、このような場合は
医療者等第三者を交えながら対応していくようにしましょう。
地域の保健センターや保健所、精神保健福祉センター、
子供家庭支援センターなどに迷わず相談をして下さい。
対応する際には、お子さん側だけでなく
親側のケアも同時に必要になることもあります。
対応に悩むことや苦慮することがあれば
ご両親自身のことについてもご相談をするようにしましょう。
まとめ
今回リストカットというテーマに触れてみました。
私の日々の診療の中でも、
自傷行為を行う方がいらっしゃることもあり
決して『稀な出来事』とは言えません。
また問題が複雑化しているケースも沢山あります。
だからこそ、問題が根深くなる前に
SOSにご家族が気がつき
リストカットから距離を取れるような
生活を送れるようにケアすることが
初期対応として望ましいと言えます。
そのためにも
②ご本人をそのまま受け止め一緒にケアを行っていくこと
③悪化/複雑化しているなら医療者等を交えること
この3点を抑えて頂ければと思います。
娘さんにとってもご両親は
一番身近な存在でもあります。
娘さんをそのまま受け止めケアをする…
といってもリストカットが
すぐに収まらないことも十分考えられます。
私も一精神科医として
相談者さんと娘さんが
一緒に乗り切っていけることを願っています。
※リストカットをするお子さん側の視点の記事はコチラ